思えば、初めて出会った頃の君は、少しおっかなびっくり。
でも同時に君は新しい世界の扉を自ら開き、
新しい仲間との出会いにワクワクしていて、
そのキラキラ輝く瞳はまるで少年の様だった。
そんな君の新鮮な出会いの表情に、この世の憂いに疲れ果て、
偏狭で偏屈になってしまっていた俺のかたくなな心も、
思わず少しずつ緩んでいったような気がしている。
それから仲間と共に君との出会いを重ねるうちに、
君の胸の内に秘める熱い思いや葛藤に触れ、
そしてそれまで君が歩んできた人生の喜びと悲しみが、
いつしか俺のたくさんの後悔や挫折と共鳴して、
お互いが助け合い、信頼しあいながら、
これからの人生を共に歩んで行ける
力強い仲間と確信できるようになった。
君はそれから、そのほとばしる情熱と有り余るエネルギーで、
俺が一人では決して進めないような未踏の地、
新しい世界をどんどん切り開いていったね。
俺はなんだかんだと偉そうなことを言うだけ、
有言実行でいつも道なき道を切り開くのは君で、
だから俺は君が切り開いてくれた道の後ろを
安心して歩くことが出来た。
君がいたから、そして一緒に支えあってくれる仲間がいたから、
俺はただただ世の中を憂い、
ひがむだけの引き籠りの悲観論者から立ち直れたのだと思う。
そして今、君は、HIVと共に体の中に巣食う
もう一つの病魔と必死に闘っている。
HIV陽性者は早期発見早期治療によって、
かなりの確率で日常生活に大きな支障を来すことの無い
暮らしを送れるようになると言われて久しい。
もちろんそれは事実だ。
偏見や誤解、中途半端な偏った知識によって、
HIVやエイズは同性愛者のかかる死の病、
人生と人間関係の終わり、自分とはかかわりの無い世界だと
未だ多くの人が刷り込まれている現実を思うとき、
そうではないんだ、正しい知識と行動によって、
HIVやエイズは感染の予防をする事が出来るし、
早期発見早期治療は本人にとってはもちろん、
当事者の接する周囲の人、ひいては社会全体にとっても
良い事なんだと理解してもらう事はとても大事だ。
そして同時に、HIVに対する正しい知識を広げることを通して、
同性愛者などのセクシャルマイノリティに対する偏見を
無くしていく事もとても大切なことだと思う。
だけど、世の中の多くの人たちに知って欲しい事、
勘違いしないでほしい事は、例え今、
HIVの治療やコントロールがうまく出来ていて、
エイズ発症と呼ばれる状態にはなっていなかったとしても、
HIV以外の様々な病気を併発して苦しんでいたり、
HIV治療薬の副作用や長期服用による弊害で苦しむ
HIV陽性者も実は多くいるのだという事。
エイズ発症によって誘発される病気、
HIV感染と同じ様な感染リスクによって
HIV感染前後いずれかに感染してしまっている病気、
治療薬の副作用による病気、
長期服用による肝臓への負担からくる病気、
骨、歯、目等の特定の部位に影響する病気、
元々本人が持っていた持病がHIV感染によって悪化するケース、
そして心の病・・・
それらの病気にかかってしまう経路も時期も様々なケースがあるが、
とにかく言えることは、
HIVウイルスさえコントロール出来ていれば万事安全、
至って健康、などと言い切れる
ラッキーな陽性者ばかりではないという事だ。
いやむしろ、HIV陽性者の多くは、
HIVと同時に何らかの病気も一緒に抱え込んで
しまっている場合が多いのかもしれない。
もちろんHIV陽性者でなくたって、
様々な病気にかかるリスクはそれぞれあるだろう。
だけどHIV陽性者の場合は、色んな理由で他の病気への罹患率も高く、
かつ、劇症化するケースが陽性者で無い人に比べて多いのだと思う。
そして君は今、
HIVウイルスはきちんとコントロール出来ていたのに、
同時に抱え込んでいた別の病魔が、
健康になろうとする君の体内の防御機構と
壮絶なバトルを繰り広げている。
一方の治療を優先すれば一方の病魔が幅を利かせ、
一進一退の板挟みの君の体は耐え切れずに悲鳴を上げる。
あんなに溌剌としていた君の、
その苦しそうで気弱な涙声を聞くのが辛い。
そげ落ちた面立ちを直視するのが辛い。
でも一番つらく苦しいのはもちろん君だよね。
俺に出来ることはせめて君のその弱音を、
不安におびえる顔を正面から受け止め、
力強く笑顔で返してあげることくらいだ。
でもね、ちゃんと俺たちの仲間にも、
同じように辛く長い併発する病気と向き合って
乗り越えてきた仲間がすぐ傍にいることを忘れないで。
彼は君よりもっと危険な死の淵から不死鳥のごとく蘇って来たよね。
もちろん君だって必ず元気に帰ってくるよ。
だから君よ。
病気と向き合う君よ。
俺たちはいつも君と共にある。
辛いときは俺たちの事を思い出して。
医療には俺たちの手は届かないけれど、
君が不安におびえる夜は、いつでも電話しておいで。
声を出す元気が無いときはメールでも構わないよ。
そしてメールを打つ元気が無いときは、
俺たちが君の元へ笑顔を届けに行こう。
君は一人じゃない。
これからも仲間と共に支えあって行こう。
そして元気な笑顔で、
少しスマートになったその体で、俺たちの元に帰っておいで。
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